海外赴任者への会社の不適切対応

関西からの海外赴任の多くは東南アジアを含むアジア全体が大半を占めます。短期の海外旅行(1か月以内)では、破傷風トキソイドとA型肝炎ワクチンを勧めていますが、長期(1か月以上)の旅行の場合、厚生労働省検疫所では、麻疹ワクチン、日本脳炎ワクチン、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、狂犬病ワクチン、破傷風トキソイドの接種を勧めています。外務省の「世界の医療事情」では、腸チフスワクチンの接種を勧めています。厚生労働省検疫所のホームページにおいて、腸チフスワクチンへの言及がないのは、腸チフスワクチンを厚生労働省が承認していないためだと思います。

これらのことを踏まえると、海外赴任される方及び家族は麻疹ワクチン、日本脳炎ワクチン、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、狂犬病ワクチン、破傷風トキソイド、腸チフスワクチン接種をすべきであると思います。実際、当院に相談があった堺市のU興産は中国上海郊外へ1年以上赴任する社員に対し、上記の接種を全て行っています。岸和田市の会社もインドネシア赴任を繰り返す社員に上記の全ての接種を行っています。一方、A型肝炎ワクチンと破傷風トキソイド接種にしか、費用を負担しない会社が多いのも事実です。会社が負担しなければ、それ以外の予防接種をうたない社員が増えるのも当然です。

ここで、こういった会社の不適切な対応のため、犠牲になった症例を報告します。

インドネシア出張中に麻疹脳炎を発症した成人男性の一例

この患者は千葉県柏市のトラベルクリニックにて、渡航前接種を受け、麻疹、風疹、ムンプス、水痘の抗体検査や麻疹を含むワクチンの接種を勧められました。しかし、本人が断ったため、麻疹の2回目の接種をせずに出発することになってしまいました。結果的に麻疹脳炎となり、かなり回復されたものの、未だに後遺症が認められているようです。

2016年に関西空港職員に麻疹が集団発生した例を含め、2017年になって、新潟県、京都府、鹿児島で発生した例の発端すべてがインドネシア、特に、バリ島からの帰国者です。特に、関西空港職員の集団発生例の分析結果では、全員、麻疹ないし麻疹風疹混合ワクチンの1回接種をしていたにもかかわらず、修飾麻疹を発生したようです。インドネシア以外の海外赴任者には関係ない気もしますが、休暇中にインドネシアの訪問したり、インドネシアからの訪問客との接触もありえます。麻疹ワクチンの2回接種を強く勧めます。