渡航者別の健康指導

1)高齢者
 高齢者は時差や気候の変化など、環境の変化に順応しにくいというリスクがある。また、慢性疾患を抱えている者も多く、旅先で原疾患の悪化を招くことがある。さらに、高齢者の精神状態は旅行中に躁の傾向になりがちで、疲労がたまっても日常以上の行動をとってしまうことが多い。特に、団体行動を利用する場合、他の参加者を気遣うあまり、休息が取りにくい状況に陥りやすい。
 こうした事態を避けるため、海外渡航する場合、日程にゆとりをとることが大前提ですが、疲労がたまったら無理せず、ホテルで休息してください。もし、体調不良が出現した場合、早めに現地の医療機関を受診してください。また、慢性疾患のある者については、疾患名や服用中の薬剤名を記載した英文診断書を持参してください。
 海外旅行保険の加入も勧めます。よく、クレジットカードに海外旅行保険が自動付帯するため、不要だというのは間違った考えです。第一に、「補償対象範囲と金額」が違います。例えば、「疾病死亡」「緊急歯科治療費用」などです。旅行中に病気で死亡した場合は、クレジットカードの海外旅行傷害保険では補償されません。一方、AIU等の海外旅行保険の場合は、旅行中に病気で死亡した場合も補償の対象となります。次に、重要なのは、「救援費用」です。私の知人は「マチュピチュ遺跡」を訪問した際、気胸をを発症し、現地の病院に緊急入院となりました。海外旅行保険に加入していれば、プライベートジェットをチャーターした上、ドクター同乗で帰国することも可能です。残念ながら、彼は加入していなかったので、現地の医師の治療を拒否し、200万円以上の飛行機代を支払って、無理やり帰国されました。

2)小児
 観光旅行や親の海外赴任に帯同するため、小児を海外に連れていく機会が増えています。小児は成人と比べて環境に変化に対応するのが容易ではないので、健康問題や事故を起こす頻度が多くなります。なお、小児が航空機に搭乗する時期は、首が坐る生後3カ月以降が望ましいとされていますが、観光目的の渡航は国内国外にかかわらず、定期予防接種のほぼ終了する2歳以降が理想的です。

3)妊婦
 妊娠中でも中期(16~28週)になれば、海外渡航は問題ないとされていますが、各航空会社は妊婦の搭乗に関する規定を設けており、一般には32~35週まで搭乗が可能となっています。
 航空機内で旅行者血栓症になるリスクが高いので、水分補給や足の運動を忘れないようにする。シートベルトを装着する際は、腹部との間に毛布を挟むなどして、直接ベルトが子宮を圧迫しないように注意する。また、旅先で下痢を起こすと胎児に悪影響を及ぼすので、飲食物には十分な注意が必要である。
 ワクチン接種につては生ワクチンは妊娠中は禁忌となっていますが、不活化ワクチンは妊婦に有害とするデーターはありません。しかし、旅先で感染症にかかるリスクを検討した上で接種を判断しましょう。
 妊婦はマラリアに罹患すると重症になることが多く、マラリアの流行地域に滞在することは避けるべきです。